- 事業用口座は個人と事業を分けて管理するための口座
- 屋号付き事業用口座なら取引先への信頼も高められる
- 個人事業主が事業用口座を持つメリット・デメリット
- 事業用口座を持つメリット
- 事業用口座を持つデメリット
- 事業用口座を開設できる金融機関の特徴と選び方
- 都市銀行の特徴
- 地方銀行、信用金庫の特徴
- ネット専用銀行の特徴
- 信託銀行の特徴
- ケーススタディ「あなたに合った事業用口座は?」
- 1.人脈はあまり無く自己資金は300万円程度(運転資金3カ月、業界経験6年)
- 2.大都市圏で飲食店経営、自己資金は500万円程度(運転資金5カ月、業界経験10年)
- 3.Web制作事業を開業し、デザインやプログラミングなどはフリーランスに委託(業界経験6年)
- 4.小売店を将来的に海外に出店する目的で開業(運転資金3カ月、業界経験10年)
- まとめ
事業用口座は個人と事業を分けて管理するための口座
事業用口座とは、個人事業主が個人的に使用する銀行口座と分ける目的で、事業用だけに使う銀行口座のことを言います。売上などの入金と、原材料費、人件費、家賃など事業にかかる支出すべてを管理します。
事業用口座に屋号を付けたい場合には、あらかじめ税務署へ開業届を提出しておけば、身分証明書と開業届を銀行窓口に持っていくことで、屋号付き銀行口座が開設できます。
屋号付き事業用口座なら取引先への信頼も高められる
屋号付き事業用口座とは、税務署への開業届に屋号を記載しておくことで作成可能になる「屋号+氏名」を口座名義とした銀行口座のことを言います。
屋号無し事業用口座でも、後述する事業用口座を持つメリットはあるものの、屋号付き事業用口座ならさらにメリットが大きくなります。取引先へ請求書を発行した際の振込先口座に屋号も記載されるため、事業用口座であることが認識されやすくなります。それによって、「この人は個人口座と事業用口座を分けている」と信用力を高められます。
個人事業主が事業用口座を持つメリット・デメリット
事業用口座を開設することで、様々なメリットを享受できるようになります。また、デメリットも少なからずあります。
事業用口座を持つメリット
事業用口座を持つメリットは大きく分けて4つあります。
1.個人の収支と事業の収支を明確に区別できる
個人の収支と事業の収支が混合してしまうと、毎月の資金繰りがわかりづらく、事業で得た利益額もわかりづらくなってしまいます。また、事業を始めたら事業で使っている通帳の内容を全て会計帳簿として記帳する必要があります(総勘定元帳)が、個人の収支分も会計帳簿に記帳する必要があり、作業量が増えてしまいます。なお、この会計帳簿を作成する際の仕訳では、通帳にある個人的な収支については「事業主貸・借」を用います。事業用口座を開設しておけば個人的な収支の帳簿を作成する量も減り、通帳残高を見ることで利益を簡単に把握することができるようになります。
関連記事
総勘定元帳ってなに?POSデータは使えるの?わかりやすく説明します
2.税務調査で不要な疑いをかけられる可能性が減る
個人事業主は、個人的な収支と事業の収支が混在し、個人的な支出も経費に計上しているのではないか? と税務署は常々疑問に思っています。事業用口座があれば、個人的な収支と事業の収支を明確に分けていることが明らかになりますので、税務署からの信頼性が高まり、税務調査で不要な疑いをかけられる可能性が減ります。
3.アドバイスを受けやすくなったり記帳業務を従業員に任せられる
個人の通帳を他人(専門家を含め)に見せることに抵抗がある人は多いと思いますが、事業開始当初は様々な人からの助言をもらった方が事業の成功率が高まります。そこで個人用口座と事業用口座を分けておけば、他人に口座を見せることのハードルが下がり、アドバイスを受けやすくなります。また、事業用口座を従業員に預けやすくなり、通帳記帳業務を従業員に任せることができればご自身の業務負担も減らすことができます。
4.金融機関からのサポートが得られやすい
地方銀行や信用金庫など、比較的融資に積極的な金融機関に事業用口座を作っておけば、必要な時に融資を獲得できる可能性が高まります。口座開設時の申込書に「事業目的」と記載することで、担当者に事業を認識してもらえ、さらに取引先を紹介してもらえることもあります。
事業用口座を持つデメリット
通帳の数が増えますので、通帳記帳に行く頻度が個人口座のみの場合と比べると増えてしまいます。加えて、キャッシュカードの枚数や残高管理の手間も増えます。
税務調査や会計帳簿作成時には通帳が必要になってきますから、必ず通帳記帳をするようにしてください。一定期間通帳記帳を怠ると、合計記帳(その期間の収支を合算して記帳すること)されてしまうことがあります。この場合、合計記帳された期間の取引明細を取得するように税務調査官から求められますので、定期的な記帳をお勧めします。
事業用口座を開設できる金融機関の特徴と選び方
事業用口座は、都市銀行や地方銀行、信用金庫、ネット専用銀行など様々な種類の金融機関に開設することができます。各金融機関を比較して、ご自身が考えるビジネスに有用な金融機関を選びましょう。
都市銀行の特徴
金融庁から許可を得ている都市銀行は、みずほ銀行、三井住友銀行、三菱UFJ銀行、りそな銀行の4行です。特徴としては、全国に支店を構えており、銀行窓口で手続きが必要な場合には、出先の最寄り銀行を利用することができます。
都市銀行は規模が大きいため、これから事業を始める人へのサポートは手薄に感じるかもしれません。海外展開を最初の段階から検討している場合には、都市銀行を利用するのも良いと思います。
また、取引先や従業員などが多く利用している銀行であれば、安い同行手数料が適用されるメリットがあります。特に大都圏では銀行ATMの設置台数も多いため、飲食店や小売店などのように現金商売をしている方は売上金の入金などに便利です(他行ATMから預入すると手数料が多く取られてしまうため)。保険商品や金融商品の取り扱いなどをする関連会社を運用していますので、個人的なサポートも期待できます。
地方銀行、信用金庫の特徴
地方銀行や信用金庫は、地域密着型で特定の地域経済を促進するための営業活動を行っているのが特徴です。つまり融資という面においては地方銀行、信用金庫が他の種類の銀行よりも積極的であるということになります。融資を必要とするビジネスを考えている場合にはお勧めです。
地方銀行と信用金庫の違いは、地方銀行は株式会社なので、営利目的で組織されている一方、信用金庫は非営利目的で組織されています。営利目的と非営利目的、いずれがよいかは一概には言えません。営利目的の場合、組織は利益を得て出資者配当を配るために事業を運営しますので、直接的には組織の利益を得ながら我々にサービスを提供します。一方非営利の場合には、組織は利益ではなく地域発展等の目的の下に事業が運営されます。どちらも一長一短ありますので、最終的には組織で選ぶのではなく、担当者との相性が大切になります。
地方銀行、信用金庫は、ビジネスを始める人へのサポートに特化した金融機関と言っても差し支えありません。金融機関から関連する会社を紹介して貰うことや、融資を受けやすい傾向があります。特に地方においては、地方銀行や信用金庫のATMの設置台数は多く、上記と同様に現金商売をする方にとっては利便性が高いです。
一方、大都市圏では都市銀行に比べれば同行利用者が少なく、他行振り込みの手数料が少し高く設定されていることが多いです。ほとんどの、都市銀行ATMやコンビニATMと提携しているため、ATM利用は問題ありませんが、入出金時に手数料が多くかかってしまいます。
また、都市銀行同様に保険商品や金融商品を取り扱っている金融機関も多いですが、全ての金融機関が扱っているわけではないので、事前の調査が必要です。
ネット専用銀行の特徴
都市銀行や地方銀行、信用金庫とは異なり、実際の店舗を持たずにインターネット上でサービスを提供する銀行です。手続きがインターネット上で完了しますし、送金手数料が比較的安めに設定されています。
ネット専用銀行は、金融機関からのサポートはあまり期待できません。銀行に人脈の紹介を期待しない方には良いかもしれません。振込手数料などが比較的安く設定されているので、「あくまでも金融機関は資金のやり取り」と割り切ることができる場合には良いでしょう。コンビニATMと提携しているネット専用銀行が多く、入出金手数料も安く設定されています。金融商品などの取り扱いをしているネットバンクもありますが、ラインナップがやや少ない傾向です。
なお、税金等の支払をする際にPay-easy(ペイジー)というシステムや口座振替を利用しますが、ネット専用銀行ではPay-easyや口座振替に対応していないことが多いので、納税する際には現金を引き出して納税しなければならないというデメリットもあります。
信託銀行の特徴
信託銀行は都市銀行、地方銀行、信用金庫、ネット専用銀行同様に預金や貸付などの銀行業務以外に個人や法人が持つ財産(預金や有価証券、不動産など)を管理運営する「信託業務」や財産の管理処分を行う「併営業務」を行っています。
事業化の支援という意味では、ネット専業銀行と同様にほとんど期待しないほうが良いです。振込手数料の面でも、同行利用者が少ないのと他行振り込みも少し高めに設定されています。信託銀行は、老後資金の管理運営、処分を目的として作られているため、一般の銀行とは異なるサービスが多い上に、信託銀行によってサービス内容が全く異なるのが特徴的です。事業用資金を管理するというよりは老後の資金を確保するための運用というイメージが強いです。
なお、信託銀行によっては、「事業用で口座を開設できません」と宣言している銀行もあります。もしこのような銀行の口座を事業用口座として使ってしまうと、口座使用を差し止められてしまうことがあります。「屋号付き銀行口座を開設できない」と言われた場合には、良く調べる必要があります。
名称 | 都市銀行 | 地方銀行、信用金庫 | ネット専用銀行 | 信託銀行 |
---|---|---|---|---|
起業支援 | 〇 | ◎ | △ | △ |
振込手数料 | 〇 | △ | ◎ | △ |
ATM設置台数 | 大都市圏 ◎ | 大都市圏 △ | 〇 | △ |
地方 △ | 地方 ◎ | (コンビニATM) | ||
その他商品 | 〇 | 〇 | △ | ◎ |
ケーススタディ「あなたに合った事業用口座は?」
業種や人脈、ニーズによってどのような事業用口座を開設するのがいいのか迷うかもしれません。特徴や注意点を前提に、ケーススタディとしてお勧めの金融機関を選んでみました。
最適な金融機関を選ぶには、まずご自身の事業を「資金力、人脈、業種、事業の将来性」の4つの視点で分類します。資金の必要性については「設備投資資金を支払った後の運転資金」をベースに考えると良いです。資金力と人脈については、下記のようにある程度定量化が可能です。業種や事業の将来性については、定性的な分類になりますので、どれが良くどれが悪いというわけではありません。例えば昔から馴染みのある事業であれば、どの金融機関でも対応可能ですが、新規性がある事業の場合、地方銀行や信用金庫などではノウハウが不足している場合があります。
資金力の目安 | 運転資金1~3カ月分、運転資金4~6カ月分、運転資金6カ月分~ |
---|---|
人脈力の目安 | 業界経験0~3年、業界経験4~10年、業界経験11年~ |
業種の分類 | 昔から馴染みのある事業、新規性のある事業、今後開拓が必要になる事業 |
事業の将来性 | 現状よりも規模を大きくする予定、海外展開する予定、多数の雇用を予定 |
- 資金力の目安:
運転資金1~3カ月分、運転資金4~6カ月分、運転資金6か月分~ - 人脈力の目安:
業界経験0~3年、業界経験4~10年、業界経験11年~ - 業種の分類:
昔から馴染みのある事業、新規性のある事業、今後開拓が必要になる事業 - 事業の将来性:
現状よりも規模を大きくする予定、海外展開する予定、多数の雇用を予定
1.人脈はあまり無く自己資金は300万円程度(運転資金3カ月、業界経験6年)
人脈や融資の面でやや不安がありますので、地元の地方銀行や信用金庫で事業用口座を開設することをお勧めします。創業者融資のような商品を取り扱っているなど、開業する方に特化したサービスを展開している地方銀行や信用金庫もあります。また必要に応じて企業の紹介もお願いしてみるとよいでしょう。
2.大都市圏で飲食店経営、自己資金は500万円程度(運転資金5カ月、業界経験10年)
毎日の売上金の入金を考えると、手数料の削減を念頭にしたいので都市銀行での事業用口座の開設をお勧めします。自己資金に不安があれば、融資を目的に、地方銀行や信用金庫などに事業用口座を開設しても良いかもしれません。売上金の入金のためには、店舗近くにATMがあることもポイントとなります。
3.Web制作事業を開業し、デザインやプログラミングなどはフリーランスに委託(業界経験6年)
業種的には初期投資額が非常に少ないので、デザイナーやプログラマーへの支払い頻度が多いのであれば振込手数料を圧縮する目的で、ネット専用銀行に事業用口座を開設しても良いかもしれません。Webコンテンツを作成するためのまとまった資金が必要になった際には、地方銀行や信用金庫などに事業用口座を開設するのがお勧めです。
4.小売店を将来的に海外に出店する目的で開業(運転資金3カ月、業界経験10年)
最初の段階では地方銀行や信用金庫にて事業用口座を開設し、アドバイスを受けるのが良いかもしれません。しかし海外銀行と提携している都市銀行のほうが情報量は多いので、どの国にどのように進出するか具体的に考え始める段階では、都市銀行をお勧めします(当初から海外進出が具体的なら、初めから都市銀行に事業用口座を開設しても良いです)。
まとめ
- 事業用口座は個人の収支と事業の収支を分けるために開設する
- 事業用口座を作ることで取引先や税務署の心証が良くなる
- 各金融機関の特徴を理解した上で事業用口座を選ぶ
事業を始めると様々な壁にぶつかります。そんなときにサポートしてくれるのは先に事業を始めた先輩や専門家、そして金融機関です。事業用口座があれば、先輩や専門家に相談しやすくなります。金融機関によっては相談に乗ってくれることもあります。本記事を参考にして、事業用口座開設を通した最適な金融機関との付き合い方を考えてみてください。
参考:https://airregi.jp/magazine/guide/9598/