②生活の満足度を高める

生活の満足度を決めるのは「お金の使い方の哲学」

年収が下がっても幸福度はそれほど下がらない理由とは?

 1つ目の研究は、「プレジデント誌」2014年8月18日号の「年収1000万vs300万 人生とお金の満足度1000人調査」です。同調査によると年収1000万円以上の回答者のうち7割弱が自身の幸福度が70点以上と答えています。一方、年収300万円台では、回答者のほぼ半分が幸福度70点以上と答えています。年収と幸福度が正確に比例するのであれば、年収が3分の1になれば幸福度も3分の1に低下するはずです。しかし、幸福度は2割弱(7割弱→5割)しか減少していません。同調査では年収以外の満足度を除くと、仕事と家庭の満足度は年収300万円代の回答者が年収1000万円代の回答者を上回っています。年収だけではなく、総合的な生活環境で幸福度が左右されると考えられます。
 また、幸福と収入の関係では、2010年にプリンストン大学の行動経済学者ダニエル・カーネマン氏らが発表した論文も知られています。この論文の内容は簡単にいうと「収入の増加による幸福度の上昇には限界があり、年収が75,000ドルを越えると幸福度と収入は連動しなくなる」というものです。
 これらの研究から、幸福度を上げるにはお金だけでは限界があり、お金がなくても幸福度を一定のレベルに保つことができることを示しています。多くの人が漠然と感じていることが数字で明確になっています。

性格に合った支出は幸福度を増加させる?

 2つ目の研究は、2016年にケンブリッジ大学の心理学者サンドラ・マッツ氏らが発表したものです。マッツ氏らは、「性格に合致した支出はその人の幸福度を増加させる」という研究内容を発表しました。
 この研究では、性格に合致した支出で増加する幸福度は、収入とは関連がないとしています。例えば、「協調性の高い人」は、寄付やペットという分野にお金を使うほど、幸福度が上昇する傾向があります。また、「道徳心の高い人」は、健康に多くのお金を費やすことで、幸福度が上昇する傾向があります。つまり自分の性格に合致した目的にお金を使えば、収入に大きく依存することなく幸福度が上がることを示しています。

お金よりも時間を重視する人は幸福度が高い

 3つ目の研究は、2016年に発表されたUCLAの心理学者ハル・ハーシュフィールド氏らによる研究です。この研究では、「お金と時間、どちらが欲しいですか?」という質問に「時間」と答えた回答者の方が、幸福度が高いという結果が出ています。
 生活が苦しい状況では、労働時間を増やして収入を増やす行動は合理的な選択です。しかしその結果、自由な時間が少なくなるほどストレスや不満度が上昇します。自由にできる時間を増やすことは、幸福度を上げるための確実な方法です。しかし、自由な時間を増やす(=労働時間を減らす)ことは多くの場合収入の減少につながります。仕事の効率化を進めたり、生活費を見直したりするなど何らかの工夫が必要です。

モノにお金を使うより体験にお金を使うと幸福度が高くなる

 4つ目の研究は、ハーバード大学ビジネススクールの社会科学研究者マイケル・ノートン教授の調査です。同調査では、「モノ」にお金を使うより「体験」に使う方が、幸福度が高いという結論が出ています。
 旅行やパーティーなどのイベントでは、計画段階から幸福度の上昇が始まり、当日または前日に幸福度はピークを迎えます。一方、モノは購入後も長い間手元に置いておけるため幸福度は長期に分散されてしまいます。さらに人には「慣れ」という特性があるため、「持っていて当然」と考えるようになるまで、それほど時間は掛かりません。慣れてしまったあとでは、モノの所有は幸福度の上昇にほとんど寄与しません。モノではなく体験に使うお金を増やすことは、幸福度を上げるためのひとつの方法です。

幸福な人生を送れるかどうかは使い方次第

 お金は少なすぎると、将来を不安視してしまったり生きる自信を失ったりして、ストレスを生じさせる可能性があります。大金を稼ぎ、自分の好きなことにお金を使うことで、最高に幸せな人生を送るという選択もあり得ます。お金は人生に必要ですが、しかし、お金そのものが人生に幸福を与えてくれるわけではありません。幸福な人生を送れるかどうかは使い方次第ということを4つの研究が示しています。

参考:https://www.gala-navi.com/column/lifeplan/c001648